「よく噛んで食べなさい」——子どもの頃に言われた覚えがある方も多いと思います。食事をよく噛むことは、消化を助けるだけでなく、歯そのものを守る働きや、お口と全身の健康を支える働きを持っています。
厚生労働省は「ひとくち30回以上噛むこと」を目標とした「噛ミング30(カミングサンマル)」を提唱しており、日本歯科医師会も食育の一環として推進しています。
この記事では、よく噛むことが歯と身体にどう良いのかを、公的機関の資料や学術論文をもとにわかりやすく解説します。
監修:
現代の私たちが1回の食事で噛む回数は、弥生時代の食事と比較しておよそ6分の1にまで減っていると推計されています。食品が柔らかく加工され、素早く食べられるようになったことで、よく噛む機会そのものが少なくなっているのが現代人の食事の特徴です。
咀嚼の回数が減ることは、単に食事の時間が短くなるというだけではありません。唾液の分泌や顎の運動、脳への刺激など、よく噛むことに付随して起きていた多くの働きも同時に減ることを意味します。
食を通して健康寿命を延伸するためには、小児期から高齢期に至るまでの口腔の健康と関連させた食育を推進していくことが重要である。ひとくち30回以上噛むことを目標として「噛ミング30」の推進が望まれる。(※引用元要約)
「噛ミング30(カミングサンマル)」は、厚生労働省の検討会報告書で提言された食育のキャッチフレーズです。ひとくち30回以上噛むことを目標に掲げ、日本歯科医師会や学校現場でも周知が進められています。
数字そのものにこだわる必要はありませんが、「飲み込む前に意識して数回多く噛む」という習慣だけでも、唾液の量や食事のペースが変わってきます。
小学生を対象に噛ミング30の学習を行った介入研究では、よく噛む習慣を促すことが歯肉炎の予防にもつながる可能性が示唆されています。
小学生において、不十分な咀嚼習慣と歯肉の炎症に関連性があることが示された。「噛ミング30学習」は、よく噛むことを促すだけでなく、歯肉炎の予防にも効果がある可能性が示唆された。(※引用元要約)
「30回噛みましょう」と言われても、急にできるものではありません。回数を数えるよりも、自然と噛む回数が増える環境をつくるほうが続けやすくなります。
毎食すべてで意識する必要はありません。1日のうち1食でも、いつもより少し多く噛むことから始めてみてください。
公益財団法人8020推進財団は、よく噛むこと(咀嚼)の効用を覚えやすくまとめた標語として「ひみこのはがいーぜ」を紹介しています。弥生時代の卑弥呼の食事になぞらえたもので、8つの文字それぞれが咀嚼のメリットを表しています。
| 文字 | 効用 |
|---|---|
| ひ | 肥満の予防(満腹感が得やすくなる) |
| み | 味覚の発達(素材の味を感じやすくなる) |
| こ | 言葉の発音がはっきりする |
| の | 脳の発達(咀嚼による脳への刺激) |
| は | 歯の病気予防(虫歯・歯周病のリスク軽減) |
| が | がん予防(唾液中の酵素による作用) |
| い | 胃腸の働きを助ける |
| ぜ | 全力投球できる体づくり |
8つの効用のうち、特に歯科と直接関わりが深いのは次の3つです。
このうち最も即効性があり、毎日の食事のたびに働いてくれているのが唾液の分泌です。次の章で詳しく見ていきます。
食事中に噛む回数が増えると、咀嚼に伴って唾液の分泌量が増えます。健康な成人で1日におよそ1〜1.5リットルの唾液が分泌されていますが、この量はよく噛む刺激や加齢、ストレス、服用中の薬などによって大きく変わります。
唾液には、歯と口を守るための複数の働きが備わっています。
| 唾液の働き | お口の中で起きていること |
|---|---|
| 自浄作用 | 食べかすや細菌を洗い流す働き。よく噛むほど唾液が増え、お口の中がきれいに保たれやすい。 |
| 再石灰化 | 唾液中のカルシウムやリン酸が、酸によって溶け始めた歯の表面を修復する働き。 |
| 緩衝作用 | 食後に酸性に傾いたお口の中を中性に戻す働き。虫歯になりにくい環境を保つ。 |
唾液の分泌量はヒトで1日に1リットル以上に達し、3対の大唾液腺と無数の小唾液腺から必要に応じて分泌される。唾液は咀嚼しやすい食塊を作るだけでなく、口腔の清掃・緩衝・再石灰化といった働きも担っている。(※引用元要約)
よく噛むことの意味は、ライフステージによって少しずつ変わります。子どもにとっては、よく噛む習慣が食育・生活習慣病の予防の土台になります。
よく噛んでゆっくり食べることで、脳の満腹中枢が刺激される前に食べ過ぎてしまうことを防げます。反対に早食いは満腹感を得る前に量が増えやすく、肥満のリスクを高めると考えられています。
近年はファストフードや軟らかい食事が増え、「噛まない」「噛めない」子どもが増加していると報告されています。小学生を対象とした日本の調査では、早食いや咀嚼能力の低下が、男児の肥満と関連していたと報告されています。
咀嚼は歯や口の清掃につながりう蝕を予防し、早食いや過食を防ぐことによる肥満防止、ひいては生活習慣病の予防につながる可能性が示唆されている。一方で、近年の子どもはファストフード摂食の増加や軟食嗜好により、咬合力の低下や「噛まない」「噛めない」子どもが増加している。(※引用元要約)
高齢の方にとっては、残っている歯の数や咬み合わせの状態が、噛む力に直接影響します。歯の喪失や咬み合わせの崩れによって噛めない状態が続くと、食事の内容が柔らかいものに偏り、栄養バランスが崩れやすくなります。
口腔機能と認知機能の関係についても研究が進んでおり、咀嚼力の低下や歯の喪失、歯科定期受診の有無などが認知機能の変化に関連する可能性が報告されています。ただし個人差が大きく、「噛めば認知症を予防できる」と言い切れる段階ではありません。
咀嚼と認知機能との関連を扱った複数の研究をレビューした結果、歯の喪失や咀嚼機能の低下が認知機能の低下に関連する可能性が示されている。一方で因果関係の証明は今後の課題とされる。(※引用元要約)
どれだけ「よく噛もう」と意識しても、虫歯や歯周病で歯を失ってしまうと、咀嚼そのものが難しくなります。よく噛むことの効用を長く享受するためには、噛める歯を残し続けることが大前提になります。
そのために歯科で行うのは、次のようなサポートです。
「痛くなってから通う」ではなく、「噛める状態を維持するために通う」という考え方に切り替えることで、歯を残せる期間は大きく変わってきます。アップル歯科六本松の予防歯科・定期検診では、虫歯・歯周病・治療歯のチェックなど、お口の健康を維持するためのメインテナンスを行っています。
よく噛むことは、今日からすぐ始められるもっとも身近な予防です。とはいえ、歯や咬み合わせに問題があると十分に噛めないことがあります。アップル歯科六本松では、虫歯・歯周病の予防はもちろん、噛む力に関わる咬み合わせの治療のご相談も受け付けています。気になる症状がある方はお気軽にご相談ください。
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この記事の編集・責任者は歯科医師の佐々木大地です。
歯科医師 佐々木 大地

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