歯茎にできた膿の袋(フィステル)は放置で治る?痛くない歯茎のでき物に潜むリスク

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歯茎にできた、ニキビのような白っぽい膨らみ。痛みはほとんどないけれど、なかなか消えない——そんなお悩みはありませんか?

口内炎かな」「放っておけば治ると思っていた」「押すと膿のようなものが出てきた」と感じておられる方は、それは サイナストラクト(フィステル) と呼ばれる、歯茎の中に溜まった膿の出口かもしれません。

サイナストラクト(フィステル)は痛みが少ないため軽く見られがちですが、その下では歯の根や顎の骨で炎症が静かに進んでいるサインです。放置すると、最終的に歯を失うことにつながる可能性もあります。

この記事では、歯茎に膿が出る代表的な原因であるサイナストラクト(フィステル)について、原因・口内炎との見分け方・治療の選択肢を、学会ガイドラインや論文データをもとにわかりやすく解説します。

監修:佐々木 大地ささき だいち先生 アップル歯科六本松 歯科医師

歯茎にできた膿の袋「サイナストラクト」とは

歯茎のニキビのようなでき物、その正体

歯茎にできるニキビや水ぶくれのような白っぽい膨らみ。これは多くの場合、歯の根の先(根尖)に溜まった膿の出口です。歯科では「サイナストラクト(フィステル)」と呼ばれます。

表面に見えているのは小さな膨らみですが、その下では歯の根の先で炎症が起きており、顎の骨の中に膿の袋(根尖病巣)が形成されていることがほとんどです。膿が溜まると圧力で行き場を失い、骨を突き破って歯茎の表面に出口を作ります。それがサイナストラクトとして見える小さな膨らみの正体です。

つまりサイナストラクトは「症状」というより、内側で起きている病気のサインとして捉えるのが正確です。表面の膨らみだけを潰しても、原因は歯の中にあるため改善は期待できません。

歯茎にできたサイナストラクト(フィステル)の例

「フィステル」と「サイナストラクト」の違い

結論からいうと、「フィステル」と「サイナストラクト」は同じ症状を指しています。以前は「フィステル(Fistel)」という呼び方が広く使われていましたが、近年の歯内療法の領域では「サイナストラクト(sinus tract)」という用語に置き換わってきました。日本語では「瘻孔(ろうこう)」「内歯瘻(ないしろう)」と呼ばれることもあります。

本来、医学用語としての「フィステル」は2つの臓器・組織をつなぐ完全な瘻管を指し、「サイナストラクト」は片側のみ開口した瘻管を指す、という区別があります。歯茎にできるでき物は構造的には後者にあたるため、現在では「サイナストラクト」という呼び方がより正確とされています。

参照:一般社団法人 日本歯内療法学会「歯内療法ガイドライン・学術用語集」

フィステルとサイナストラクトの呼び方の違い

痛くない歯茎の膿が危険なサインになる理由

サイナストラクトの大きな特徴は、強い痛みを伴わないことが多いという点です。出口ができたことで内側の圧力が逃げ、痛みが落ち着くためです。一見すると「治った」ように感じる方も少なくありません。

しかし、痛みが消えたのは炎症が治ったからではなく、膿が外へ流れ出るルートができただけです。原因となる根の先の感染や炎症は残ったままで、その間にも周囲の顎の骨は少しずつ溶かされていきます。

体調が落ちたり免疫力が下がったりすると、サイナストラクトが大きく腫れて痛みを覚えることもあります。「現れる→潰れる→また現れる」を繰り返すのが、慢性化したサイナストラクトの典型的な経過です。

痛みがないけれど進行している炎症のイメージ

歯茎の膿が発生する3つの原因

歯茎にサイナストラクト(フィステル)を生じさせる原因のほとんどは歯の中の感染です。代表的な原因として、以下の3つが挙げられます。

原因1:重度の虫歯による歯髄壊死

進行した虫歯を治療せずに放置すると、虫歯菌は歯の表面(エナメル質)から内側の象牙質を経て、歯の中心にある歯髄(神経・血管)へと達します。歯髄が感染して壊死(えし)すると、強い痛みが出たあと、やがて痛みが消えていきます。

痛みが消えたのは治ったからではなく、神経が機能を失ったからです。壊死した歯髄は細菌の温床となり、歯の根の先から顎の骨へと感染が広がります。これが「根尖性歯周炎」と呼ばれる状態で、サイナストラクトの最も多い原因です。

虫歯から歯髄壊死へ進行するイメージ

原因2:根管治療後の再感染

過去に「歯の神経を抜く治療(根管治療)」を受けた歯にサイナストラクトが現れることもあります。根管治療を行った歯の根の中に細菌が残っていたり、すき間から再び細菌が侵入したりすると、根の先で再び炎症が起こります。

歯の根の中は非常に細く、複雑に枝分かれしています。そのため、肉眼や保険診療の範囲内の器具だけでは、すべての細菌を取り除くことは難しいのが現実です。日本歯内療法学会の報告によれば、初回の根管治療と再治療の成功率は次のような水準とされています。

複雑な根管構造のイメージ
治療の種類 精密根管治療(自由診療)での成功率の目安
初回の根管治療 およそ90%以下
再根管治療 およそ70%以下
外科的歯内療法(歯根端切除術など) 90%以上で改善が報告されている

解剖学的な根管系の複雑さから、根管内を完全に無菌化することは困難であるため、初回治療および再治療の成功率はおのおの90%および70%以下に留まっている。同治療が奏功しない場合は根尖病変の外科的切除と逆根管治療を施すことにより90%以上のケースが改善される。(※引用元要約)

※上記の成功率について(重要)

上の表に示した成功率は、マイクロスコープやラバーダム防湿などを用いた精密根管治療(自由診療)を行った場合に報告されている数値です。保険診療下で行われる一般的な根管治療では、成功率は30〜50%程度にとどまるとされており、大きな差があります

これは、保険診療では1回あたりの治療時間や使用できる機材・材料に制約があるためで、欧米の標準的な治療と比べても日本の保険診療下の根管治療成功率は低い水準にとどまっていると報告されています。

参照:須田英明「わが国における歯内療法の現状と課題」日本歯内療法学会雑誌 2011年32巻1号 p.1-10

このように、根管治療はどの条件で治療を受けるかによって成功率が大きく変わるのが現実です。再感染や抜歯のリスクを下げるための選択肢として、マイクロスコープ(手術用顕微鏡)ラバーダム防湿(治療部位を唾液から隔離するシート)を用いた精密根管治療があります。これらは保険診療では算定が難しく、自由診療で提供されることが多い治療です。費用負担はありますが、長期的に歯を残すための重要な選択肢といえます。

原因3:歯根破折(歯の根のヒビ・割れ)

3つ目の原因は、歯根破折です。神経を抜いた歯(失活歯)は、栄養や水分の供給を失うことで、健康な歯に比べて脆くなりやすい傾向があります。長年の咬む力や、就寝中の歯ぎしり・食いしばりによって少しずつダメージが蓄積し、ある日歯の根にヒビが入ったり割れたりすることがあります。

ヒビの隙間から細菌が侵入すると、そこで感染が起きてサイナストラクトが現れます。歯根破折が原因の場合、根の中をいくら清掃しても根本原因が残るため、抜歯が必要になるケースが多いのが特徴です。

歯根破折を予防するためには、就寝中のナイトガード(マウスピース)の使用や、咬む力を分散できる土台・被せ物の選択が有効です。土台に金属のかわりに弾性のあるファイバーコアを選ぶことで、歯にかかるダメージを和らげる工夫もあります。

歯根破折のイメージ

歯茎のでき物は口内炎と何が違う?見分け方

口内炎との見分け方

歯茎にできる白いできものを見て、まず思い浮かぶのは「口内炎」かもしれません。しかし口内炎とサイナストラクトは、見た目は似ていても性質がまったく異なるものです。

大きな違いは「痛み」「経過」「場所」の3点です。下の表で整理してみましょう。

口内炎とサイナストラクトの違い
項目 サイナストラクト 口内炎
痛み 強い痛みは少ない。押すと違和感や鈍い痛みを覚える程度 触れただけで強くしみるような鋭い痛みがある
経過 2週間以上消えない、または現れたり消えたりを繰り返す 通常1〜2週間ほどで自然に治る
できる場所 歯の根元の歯茎(特定の歯のすぐ横)に固定して現れる 頬の内側や舌、唇の裏など、歯と関係のない場所に多い
押したとき 白〜黄色っぽい膿が出てくることがある 膿は出ない。痛みが強くなる
原因 歯の中の感染(歯髄壊死・根管の再感染・歯根破折など) 免疫力低下・ストレス・物理的刺激・栄養不足など

セルフチェック

以下の項目に当てはまる場合、サイナストラクトの可能性があります。複数当てはまる場合は、一度歯科医院で診察を受けることをおすすめします。

サイナストラクトの可能性チェック

これらは目安であり、最終的な診断はレントゲンや歯科用CTなどの検査が必要です。自己判断で潰したりせず、できるだけ早めに歯科医院でご相談ください。

セルフチェックを行う患者

サイナストラクトを放置するとどうなるか

歯を失うリスク

サイナストラクト(フィステル)の原因である根尖性歯周炎は、世界的にも非常に多くの人がかかっている疾患です。エストニアで6,552名を対象に行われた調査では、54.7%の人に根尖性歯周炎が認められたと報告されています。さらに、根管治療を受けた歯のうち44.6%に病変所見があったとも示されており、治療済みでも再発するリスクが決して低くないことがわかります。

サイナストラクトを放置すると、原因となっている根尖の炎症が広がり続け、最終的には歯を支える組織が大きく失われます。そうなると、根管治療では対応できず、抜歯が必要になることがあります。

放置すると進む歯槽骨の吸収

エストニアの成人6,552名を対象とした調査で、根尖性歯周炎は54.7%の被験者に認められた。根管治療を受けた歯では44.6%に根尖部の所見が見られ、未治療歯でも30.8%に所見が認められた。(※引用元要約)

顎の骨へのダメージ

歯の根の先で炎症が続くと、その周囲の顎の骨(歯槽骨)が少しずつ溶けていきます。一度失われた骨は、自然に元の状態に戻ることは基本的にありません。骨が大きく失われた状態で抜歯となると、その後インプラントなどで歯を補おうとしても、骨を増やす処置(骨造成)が必要になり、治療期間や費用の負担が大きくなります。

また、感染がさらに広がると、頬や顎の腫れ、発熱などを伴う「顎骨炎」「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と呼ばれる重い症状を引き起こすこともあります。こうなると、入院や口腔外科での処置が必要になる場合もあります。

「痛くないからまだ大丈夫」と感じている間にも、骨は静かに失われ続けています。早い段階で対処するほど、結果的に残せる歯と骨が多くなるのがサイナストラクトの治療の特徴です。

顎の骨へのダメージのイメージ

歯茎の膿の治療法と予後

基本となる根管治療

サイナストラクト(フィステル)の治療は、原因が歯の中の感染である場合、根管治療(歯の根の中を清掃・消毒する治療)が基本となります。根管内に残った細菌や感染した組織を取り除き、薬剤で消毒したうえで、再感染を防ぐための材料で密封します。

原因となっている細菌が取り除かれると、内側で続いていた炎症が落ち着き、サイナストラクト自体は数日〜数週間で消えていくことが多くあります。逆にいえば、サイナストラクトが消えるかどうかは、根管内の感染を取りきれているかの大切な指標になります。

根管治療のイメージ

再治療の成功率と精密根管治療

注意したいのは、根管治療は1回で確実に終わる治療ではないという点です。先に紹介したように、初回治療の成功率はおよそ90%以下、再治療になるとおよそ70%以下に下がると報告されています。再治療を繰り返すほど成功率は低くなり、最終的に抜歯となる可能性も高まります。

そこで重要になるのが、初回の治療をできる限り精度の高い条件で行うことです。具体的な選択肢として以下のようなものがあります。

再感染リスクを下げるための治療オプション

  • マイクロスコープ(手術用顕微鏡):肉眼では見えない細い根管や感染部位を拡大して確認できる
  • ラバーダム防湿:治療部位を専用のシートで覆い、唾液(細菌)が根管に入らないようにする
  • ニッケルチタンファイル:弾性のある器具で、湾曲した根管も丁寧に清掃できる
  • MTAセメントなどの生体親和性の高い充填材:根管をすき間なく封鎖して再感染を防ぐ

これらを組み合わせた精密根管治療は、現在の保険診療の枠組みでは算定が難しいため、自由診療として提供されることが一般的です。費用負担はありますが、再治療を繰り返して歯を失うリスクを考えると、長期的に見て歯を残しやすくなる選択肢といえます。

マイクロスコープを使った精密根管治療

外科処置・抜歯が必要なケース

根管治療を行ってもサイナストラクトが消えない、あるいは病巣が大きい場合には、外科的歯内療法(歯根端切除術など)が選択肢となります。これは、根の先の感染部分と病巣を直接外科的に取り除く処置で、日本歯内療法学会の報告では90%以上のケースで改善が示されています。

一方で、原因が歯根破折である場合、根の中を清掃しても感染源が残るため、抜歯になることが多くあります。抜歯後の選択肢として、入れ歯・ブリッジ・インプラントなどがありますが、これらの治療を成功させるためには、ある程度の顎の骨が残っていることが前提となります。

参照:日本歯内療法学会「歯内療法診療ガイドライン」

外科処置や抜歯後の選択肢

歯茎の膿は早めの受診を

  • 歯茎にできた膿の袋(フィステル/サイナストラクト)は、歯の中の感染を知らせるサイン
  • 痛みが少ないため見逃されやすいが、内側では炎症が続いている
  • 主な原因は「歯髄壊死」「根管治療後の再感染」「歯根破折」の3つ
  • 口内炎との違いは「痛み」「経過」「場所」「押すと膿が出るか」で見分けられる
  • 放置すると顎の骨が溶け、抜歯や骨造成が必要になることがある
  • 治療の基本は根管治療。再発リスクを下げる選択肢として精密根管治療がある
  • 2週間以上消えないできものや、繰り返し出るできものは早めに歯科で相談を

歯茎にできたでき物は、口の中のちょっとしたトラブルに見えても、その下では大切な歯と骨を守るための治療が必要なサインかもしれません。「痛くないから様子を見よう」と判断する前に、一度歯科医院で原因を確かめておくことが、歯を長く残すための一番の近道です。アップル歯科六本松では、サイナストラクトや歯の根に関するご相談も受け付けています。気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。

患者へ説明する歯科医師

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この記事の編集・責任者は歯科医師の佐々木大地です。

歯科医師 佐々木 大地

略歴
2020年 九州歯科大学 卒業
2020年 九州歯科大学付属病院小児歯科 勤務
2021年 医療法人社団アップル歯科クリニック入社
2023年 梅田アップル歯科 副院長就任
2025年 アップル歯科六本松 院長就任
受賞歴
Mid-G growing up2.0トーナメント優勝
歯科医師の症例発表の大会
所属学会
growing Up 副理事
福岡SJCD
日本臨床歯周病学会所属
顎咬合学会
日本口腔インプラント学会
ISOI(国際インプラント学会)
SSS
three
LSGP
K-project
ODDS
大阪SJCDベーシックコース
M&A associates ベーシック、レギュラーコース
invisalign first private seminar
i6 インプラントベーシックコース
i6 インプラントgbrコース
CSTPC
GPアカデミー
ODGC 矯正診断コース
DXGC デジタル歯科コース
ADI Special conference inFUKUOKA
MIDG レギュラーコース
MITC 抜歯即時インプラントコース
松岡塾マウスピース矯正ベーシックコース
松岡塾マウスピース矯正アドバンスコース
中村竜三 アンカースクリューセミナー
粟屋英信 抜歯即時インプラントセミナー
辰巳大貴 外科歯内療法セミナー
辰巳大貴 再根管治療セミナー
髙橋由 デジタルプライベートセミナー
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